本研究室が最近発表した論文について紹介します
(2021年6月)
シアリダーゼNeu1を欠損したゼブラフィッシュは
危険を認識できず、行動が大胆になる
Ikeda, A., Komamizu, M., Hayashi, A., Yamasaki, C., Okada, K., Kawabe, M., Komatsu, M., Shiozaki, K.
Neu1 deficiency induces abnormal emotional behavior in zebrafish.
Sci. Rep. 11, article NO:13477, 2021 Pubmed
Neu1シアリダーゼはリソソームに局在し、Neu1の欠損症はシアリドーシスと呼ばれている。我々は先に、ゼブラフィッシュNeu1の酵素学的性状がヒトNEU1と高く保存されていること、さらにNeu1ノックアウト(Neu1-KO)ゼブラフィッシュの解析から、シアリドーシス患者と同様に骨形成や筋肉の形状に異常が生じることを明らかにしている。
一方で、Neu1が神経に豊富に存在することが知られているが、その情動行動への影響については哺乳類も含めて全く分かっていない。本論文において、Neu1-KOゼブラフィッシュの行動解析を行ったところ、Neu1-KOゼブラフィッシュは群れ形成時の個体間距離が野生型に比べて長いこと、攻撃性が低下していることが明らかとなった。一方、このKOゼブラフィッシュは同魚種、異魚種に関係なく、所見の魚に対して異常に高い興味を持ち、警戒心や危険認識が低い行動を示した。さらに通常のゼブラフィッシュが嫌う白色に対し、このKOゼブラフィッシュは好んで接近する行動を示すことからも、その特徴が確認された。遺伝子解析の結果、KOゼブラフィッシュではHPAの反応が鈍く不安を感じにくいこと、さらにその脳ではリソソームエキソサイトーシスの亢進やガングリオシドの組成変化が生じていることが分かった。
Neu1は哺乳類で保存性が高いことから、ヒトにおいてもNeu1が情動を制御する因子であり、その変化が危険/不安時における行動に影響を与えている可能性が示唆された。
(2021年5月)
宿主のラクトシルセラミド(LacCer)は
Edwardsiella tardaの感染を促進する因子である
Oishi, K., Morise, M., Vo, KL., Tran, TN., Sahashi, D., Ueda-Wakamatsu, R., Nishimura, W., Komatsu, M., Shiozaki, K
Host lactosylceramide enhances Edwardsiella tarda infection.
Cell Micobiol. e13365, 2021 Pubmed
Edwardsiella症の原因細菌であるEdwardsiella tardaは、免疫・非免疫細胞ともに細胞膜に存在するマイクロドメインから細胞内に侵入することが知られている。我々は以前に、宿主のアシアロタンパク質がE. tardaの接着因子として働き、細胞感染に重要であることを明らかにしているが、阻害剤を使った実験からこのアシアロ糖タンパク質以外にも、E. tardaの感染を制御する宿主側の分子があることが予想されていた。
そこで本論文では、宿主のスフィンゴ糖脂質に着目して解析を行った。メダカにE. tardaを感染させると、肝臓や脾臓のスフィンゴ糖脂質組成が変化することが明らかとなった。そこで、スフィンゴ糖脂質組成が異なる2種の魚類細胞を準備し、E. tardaの感染能を評価したところ、短鎖のスフィンゴ糖脂質に富む細胞でその感染が増加していた。続いてNeu3シアリダーゼを遺伝子導入した細胞で感染実験を行ったところ、LacCerの生成に伴い、その感染も増加していた。LacCerをE. tardaに前処理するとその感染が低下したこと、またLacCerをコートしたディッシュにE. tardaが良く接着したことから、宿主細胞のLacCerがE. tardaが接着する際の足場として利用されていることが明らかとなった。
(2021年3月)
シクリッドにおいてNeu4シアリダーゼは
視神経の形成に関与している
Honda, A., Hayasaka, O., Mio, K., Fujimura, K., Kotani, T., Komatsu, M., Shiozaki, K.
The involvement of Nile tilapia (Oreochromis niloticus) Neu4 sialidase in neural differentiation during early ontogenesis.
Biochimie. 185, 105-116, 2021 Pubmed
最近の我々の研究において、シクリッドのNeu4シアリダーゼが核に局在を示すことを明らかにしているが、その生理的意義については不明なままであった。
我々はナイルティラピアを人工授精させ、その初期発生におけるNeu4の遺伝子発現変化を観察したところ、孵化期にその発現が著しく上昇したことから、神経形成への関与が予想された。そこで、O. mossambicusの視神経において、明条件と暗条件ではシアリダーゼ活性が変化する(ただし、どのシアリダーゼ遺伝子に起因するかは不明)という過去の報告に注目した。解析の結果、O. niloticusにの初期発生においても外部の光刺激によりシアリダーゼ活性が変化しており、real-time PCRの結果から、その変化がNeu4シアリダーゼに起因することが明らかとなった。
そこで神経細胞の細胞株を用いてNeu4が神経機能に与える影響について検討した。その結果、Neu4遺伝子導入細胞の核において、糖タンパク質、糖脂質ともそれに由来するシアル酸量が減少しており、Neu4の基質が複数の分子にわたることが予想された。さらにNeu4遺伝子導入細胞では、神経の分化が促進されていた。このことより、シクリッドNeu4は発生段階において視神経の分化を促進していることが示唆された。また、マウスNeu4では神経細胞の分化が抑制されることから、Neu4の機能は哺乳類での保存性が低いことも明らかとなった。
(2021年3月)
漢方薬人参養栄湯は神経ペプチドYノックアウト
ゼブラフィッシュの不安行動を抑制する
Kawabe, M., Hayashi, A., Komatsu, M., Inui, A., Shiozaki, K.
Ninjinyoeito improves anxiety behavior in neuropeptide Y deficient zebrafish.
Neuropeptides. 87, article NO:102136, 2021
最近の我々の研究において、神経ペプチドY(NPY)を欠損するゼブラフィッシュ(NPY-KO)のヒト不安症の疾病モデルとしての有効性が示されている。そこで本論文では、人参養栄湯の不安抑制効果について、この疾病モデルゼブラフィッシュを用いて解析を行った。人参養栄湯は「胃腸消化力の低下」、「疲労倦怠」、「貧血」、「冷え性」などに使用される漢方薬であるが、不安やうつへの作用についてはよくわかっていなかった。
NPY-KOゼブラフィッシュは軽度のストレスに対して、著しいフリージングやへり遊泳行動などの顕著な不安反応を示すが、人参養栄湯添加飼料を4日間与えたところ、この不安行動が有意に抑制されることが明らかとなった。そこで、この人参養栄湯中の有効成分の特定を試みたところ、人参養栄湯の構成生薬ゴミシにその活性が最も強く認められ、さらにゴミシに含まれるシザンドリンと呼ばれる化合物が、人参養栄湯の抗不安活性に最も強く寄与していることが明らかとなった。この人参養栄湯を与えたゼブラフィッシュでは、th遺伝子( tyrosine hydroxylase 1)の発現が低下していることから、人参養栄湯の抗不安抑制効果はノルアドレナリンによる過覚醒の抑制によるものであることが予想された。
以上の結果から、人参養栄湯の不安抑制効果が明らかになり、今後は抗不安薬としての可能性も期待された。
(2020年9月)
魚類Neu4シアリダーゼはKDNシアリダーゼとして機能する
Shiozaki, K., Uezono, K., Hirai, G., Honda, A., Minoda, M., Wakata R.
Identification of novel fish sialidase genes responsible for KDN-cleaving activity.
Glycoconj. J. 37. 745-753, 2020 Pubmed
シアル酸の1種である3-deoxy-D–glycero–D-galacto-2-nonulopyranosonic acid(デアミノノイラミン酸、KDN)は、魚類組織などに認められ、バクテリアからの感染防御に寄与しているとされる。一方、N-アセチルノイラミン酸(NANA)と異なり、哺乳類のシアリダーゼは糖鎖からKDNを加水分解できないことが知られており、その代謝酵素については長きに渡って不明なままであった。
本論文では、これまで明らかにされていた魚類シアリダーゼ群に加えて、スポッテドガー、ウナギ、カンパチ、メキシカンテトラなどからシアリダーゼ遺伝子を単離し、その酵素学性状を比較するとともに、KDNに対する反応性について評価した。その結果、魚類Neu4は共通してKDNを基質とすることが明らかとなり、進化の過程で哺乳類とは異なる性状を得たことが推察された。一方、一部の魚類ではNeu3もKDNを基質としているが、どの魚種のNeu1もKDNに対する反応性を示さないことも明らかとなった。しかし、Neu1のパラログであるNeu1bを有するティラピア、およびメキシカンテトラでは、Neu1bがKDN特異的に作用することが判明した。スズキ目およびカラシン目が進化的に離れていることから、2魚種に認められたNeu1bのKDNシアリダーゼ活性が平行進化によるものであることが予想された。
3-deoxy-D–glycero–D-galacto-2-nonulopyranosonic acid(デアミノノイラミン酸、KDN)
(2020年3月)
神経ペプチドY欠損ゼブラフィッシュは
社会性の低下や不安増強を表す
Shiozaki, K, Kawabe, M., Karasuyama, K., Kurachi, T., Hayashi, A., Ataka, K., Iwai, H., Takeno, H., Hayasaka, O., Kotani, T., Komatsu, M., Inui, A.
Neuropeptide Y deficiency induces anxiety-like behaviours in zebrafish (Danio rerio).
Sci. Rep. 10. article NO:5913. 2020
神経ペプチドY(NPY)は脊椎動物で広く保存されているペプチドホルモンである。ヒトではNPYが不安緩和に働くことが知られており、うつ病患者ではNPYの量が少なくなっていることが知られている。一方、魚類におけるNPYの働きには不明な点が多く、その詳細は不明である。
そこで本論文では、ゲノム編集技術によりゼブラフィッシュのNPY遺伝子を破壊し、NPYノックアウトゼブラフィッシュ(NPY-KO)を作出した。その情動行動と遺伝子発現を解析したところ、NPY-KOは通常状態で極端な表現型の変化を表さないが、他の個体に対する興味が著しく低下していた。さらに軽微なストレスを負荷しただけで、NPY-KOはフリージングやへり遊泳行動などの不安行動が劇的に増加し、さらにストレス死する個体も多く認められた。また白黒選好試験では、白側に対する恐怖心が亢進し、錯乱様の遊泳行動も見られた。
脳内の遺伝子解析を行ったところ、通常時ではバソプレシンの発現がNPY-KOで増加しており、慢性ストレスを感じている状態であることが分かった。一方、ストレス負荷時においてはオレキシンやコレシストキニンの発現が増加し、さらにコルチコイド受容体の発現亢進、ノルアドレナリン系の活性化が認められ、NPY-KOにおいてNPY欠損によるHPA系の破綻が生じていることが明らかとなった。
以上の結果から、NPY-KOは人間と似た不安や恐怖を示すことが明らかになり、うつ病などのヒト疾病の動物モデルとしての応用が期待された。
(2019年10月)
宿主の糖タンパク質からの脱シアリル化は
Edwardsiella tarda病原性の発現に関与する
Vo, KL., Tsuzuki, T., Kamada-Futagami, Y., Chigwechokha KP., Honda, A., Oishi, K., Komatsu, M., Shiozaki, K.,
Desialylation by Edwardsiella tarda is the initial step in the regulation of its invasiveness.
Biochem. J. 476, 3183-3196, 2019 Pubmed
我々の研究により、Edwardsiella tarda (E. tarda)のNanAシアリダーゼが感染に関与することが分かっていたが、その詳細は不明であった。本論文では病原性が異なる複数の株を用意し、そのシアリダーゼ活性を測定した。その結果、病原性の高い株ほどシアリダーゼ活性が高いことが明らかとなり、また病原性の低い株にnanA遺伝子を導入すると、その病原性が有意の上昇することが見いだされた。すなわち、E. tardaにおいてNanAは病原性を制御する因子の1つであることがわかった。
さらに我々は、E. tardaのシアル酸代謝系についても解析した。E. tardaではシアル酸を解糖系に使用するためのLyaseと、糖タンパク質やLPSをシアリル化するのに必要なCMP-NANA合成酵素を主な代謝系とすることが分かった。 E. tardaにおけるシアル酸のエネルギー変換率はグルコースの半分程度であり、宿主から遊離したシアル酸を増殖に利用していることが推察された。また、淋菌などの他のバクテリアではLPSのシアリル化は免疫細胞からの逃避に重要であることから、E. tardaにおいても同様の機構があることが予想された。本論文の結果から、E. tardaのNanAシアリダーゼの阻害が感染の予防・治療に重要な分子であると期待される。
(2018年4月)
ティラピアNeu4シアリダーゼは
主な局在を核に示す初めての糖鎖分解酵素である
Honda, A., Chigwechokha, P., Kamada-Futagami, Y., Komatsu, M., Shiozaki, K.
Unique nuclear localization of Nile tilapia (Oreochromis niloticus) Neu4 sialidase is regulated by nuclear transport receptor importin alpha/beta.
Biochimie., 142, 94-104, 2018 Pubmed
脊椎動物においてNeu1やNeu3シアリダーゼの酵素学的性状が保存されていることが明らかとなっているが、一方でNeu4の細胞内局在は動物において大きく異なっている。例えば、同じ魚類でもメダカNeu4はリソソームに局在を示し、ゼブラフィッシュでは小胞体である。
本論文ではスズキ目の代表的な魚であるナイルティラピアに注目し、Neu4遺伝子のクローニングと性状解析を行った。その結果、ティラピアNeu4は核に主な局在を示し、これは核局在型の糖鎖分解酵素として初めての報告である。その基質特異性、至適pHとも核局在型タンパクとしての性質を有しており、このNeu4はこれまで明らかにされていない核のシアロ複合糖質の代謝、およびそれに伴う機能発現の謎を解く重要なツールとなる可能性が示された。
このティラピアNeu4には核移行シグナル配列(NLS)が含まれており、NLS欠損型Neu4は核に局在を示さない。またティラピアNeu4のNLSを有するメダカNeu4変異体を作成したところ、その局在はリソソームから核に変化したことから、NLSの制御はティラピアNeu4の核局在に必須であることが明らかとなった。
(2017年1月)
Neu1シアリダーゼは
魚類の胚発生に重要なタンパク質である
Ryuzono, S., Takase, R., Kamada, Y., Ikenaga, T., Chigwechokha, P., Komatsu, M., Shiozaki. K.,
Suppression of Neu1 sialidase delays the absorption of yolk sac in medaka (Oryzias latipes) accompanied with the accumulation of alpha 2-3 sialo-glycoproteins.
Biochimie, 135, 63-71, 2017 Pubmed
Neu1はリソソームに局在するシアリダーゼであり、ヒトではNEU1欠損がシアリドーシスと呼ばれる遺伝子疾患の原因となることが知られている。一方魚類においては、Neu1がどのような生理的役割を担っているかまったく不明であった。そこで本研究では、モルフォリノオリゴを用いてNeu1ノックダウンメダカを作製し、胚形成に与える影響について観察を行った。その結果、Neu1ノックダウンメダカでは卵黄の吸収が遅れ、胚発生に異常が生じることが明らかとなった。孵化率の低下や心拍数の異常などが認められ、孵化後も斃死する個体が多く認められた。そこでこのメカニズムを解析したところ、Neu1の良い基質であるα2-3結合のシアル酸が切断されなくなったことから、α2-3結合を持つ卵黄タンパク質が蓄積していることが明らかとなった。卵黄吸収に関与する重要なタンパク質が明らかになったことから、養殖業などへの応用が期待される。またヒトNEU1欠損症のモデル動物としてのNeu1欠損メダカの可能性が示された。
(2017年1月)
サメ筋肉脂質画分は
がん転移に重要なMMP-7の発現を抑制する
Shiozaki, K., Yoshikawa, M., Kiguchiya, S., Ikeda, A., Kamada, Y., Chigwechokha, P., Komatsu, M.,
Matrix metalloproteinase-7 inhibitory activity of lipid extract from dwarf gulper shark (Centrophorus atromarginatus) through down-regulation of gene transcription.
J. Funct. Food., 30, 90-96, 2017 Journal website
マトリックスメタロプロテアーゼ-7(MMP-7)は細胞外マトリックスを分解し、がんの転移を促進するタンパク質である。またがん以外にも種々の疾病に関与していることが知られている。そこで本研究では、このMMP-7の働きを抑える食品のスクリーニングを行い、アイザメ筋肉の脂質画分に阻害活性があることを明らかにした。高転移性大腸がん細胞HT-29にサメ脂質画分を曝露したところ、MMP-7の活性の低下が見いだされた。他の魚種(マグロ、ブリ)ではこの効果は認められなかった。次にそのMMP-7活性低下のメカニズムを解析したところ、サメ脂質は単なるMMP-7阻害剤ではなく、遺伝子レベルでその発現を抑えていることが明らかとなった。次にこのサメ抽出物に含まれる有効成分を解析したところ、ガングリオシドGD1aとGM1がMMP-7抑制効果に寄与していた。これらガングリオシドはHT-29細胞の転写因子c-jun遺伝子の発現を低下させ、これによりmmp-7遺伝子発現が抑制されていることがわかった。本研究の成果は、サメ筋肉の機能性食品としての新規利用法の利用を提案するでなく、ガングリオシドの誘導体のがん治療薬としての可能性を示している。
(2016年12月)
柑橘類由来フラバノンNaringeninは
バクテリアEdwardsiella tardaの細胞内感染を抑制する
Shinyoshi, S., Kamada, Y., Matsusaki, K., Chigwechokha, P., Tepparin, S., Araki, K., Komatsu, M., Shiozaki, K.,
Naringenin suppresses Edwardsiella tarda infection in GAKS cells by NanA sialidase inhibition.
Fish Shellfish Immunol., 61, 86-72, 2017 Pubmed
魚病バクテリアEdwardsiella tardaの細胞内感染には、NanAシアリダーゼによる宿主細胞表面のN型糖鎖の脱シアリル化が重要であることが我々によって明らかにされている(Fish Shellfish Immunol. 2015)。そこで本研究では、NanAシアリダーゼ阻害活性を天然物から探索し、そのE. tarda感染抑制効果について評価を行うことで、E. tardaに対する新規感染抑制方法の開発を試みた。今回は柑橘類抽出物を添加した餌料が養殖魚の品質向上効果を持つことに注目し、柑橘類に含まれる主な化合物類を用いて解析を行った。その結果、フラバノン類の1つであるNaringeninに高いNanA阻害活性が認められた。さらにNaringeninが抗菌活性を示さない濃度において、NaringeninはE. tardaの細胞内感性を抑制することが明らかとなった。またこの効果は持続的であることも明らかとなった。本研究の成果は、柑橘抽出物添加餌料がE. tardaの感染予防に有効である可能性を示しており、養殖業への貢献が期待される。
(2016年4月)
柑橘類由来フラボノイドNaringinは
NEU3活性阻害によりがん細胞増殖を抑制する
Yoshinaga, A., Kajiya, M., Oishi, K., Kamada, Y., Ikeda, A., Chigwechokha, P., Kibe, T., Kishida, M., Kishida, S., Komatsu, M., Shiozaki, K
NEU3 inhibitory effect of naringin suppresses cancer cell growth by attenuation of EGFR signaling through GM3 ganglioside accumulation.
Eur. J. Pharmacol., 782, 21-29, 2016 Pubmed
NaringinやHesperidinなど柑橘類に含まれるフラボノイドにはがん細胞の増殖抑制効果があることが知られているが、その作用機序についてはよくわかっていない。そこで、肺がんA549細胞および子宮頸がんHeLa細胞にNaringinを曝露し、糖脂質および糖タンパク質組成の変化について解析した。その結果、糖タンパク質の組成には変化が認められなかったが、一方で糖脂質の1種であるガングリオシドGM3の含量がNaringin曝露により有意に増加していることが明らかとなった。そこでGM3の合成と分解に関与する酵素群の解析を行ったところ、GM3を分解する酵素であるシアリダーゼNEU3の活性がNaringinにより低下していることが明らかとなった。さらにNaringin曝露がん細胞ではEGFR/ERKシグナリングが有意に低下し、細胞増殖マーカーであるPCNAの減少やアポトーシスの増加が認められた。これらの現象は、Naringin曝露により増加したGM3がEGFRの二量体化を抑制していることに起因すると示唆された。本研究によりフラボノイドの新規生理活性が明らかにされ、健康機能性食材としての新しい利用法の開発につながると期待される。
(2016年1月)
魚類シアリダーゼNeu3bは、
筋肉の形成を促進する働きを持つ
Shiozaki, K., Harasaki, Y., Fukuda, M., Yoshinaga, A., Ryuzono, S., Chigwechokha, P., Komatsu M., Miyagi, T.
Positive regulation of myoblast differentiation by medaka Neu3b sialidase through ganglioside desialylation.
Biochimie, 123, 65-72, 2016 Pubmed
Neu3bシアリダーゼは魚類特有のシアリダーゼであり、細胞質に局在するガングリオシドシアリダーゼである。neu3b遺伝子はメダカにおいて、ふ化直後に発現が著しく亢進することが以前に明らかになっていたが、その意義については不明であった。そこで筋芽細胞にneu3b遺伝子を導入し、ウマ血清により筋管細胞細胞への分化を誘導したところ、neu3b導入細胞において分化が促進されることが明らかとなった。Neu3b導入細胞では、細胞内のLac-Cerが上昇する一方で、GM2シアリダーゼの減少が認められた。そこでシグナル伝達系の解析を行ったところ、EGFR/ERKのシグナルがNeu3b細胞において低下しており、驚くべきことにEGFR遺伝子の発現そのものが抑制されていることが明らかとなった。魚類には哺乳類と異なり筋分化を司るNeu2シアリダーゼが存在しないが、本研究の結果よりNeu2の代わりにNeu3bシアリダーゼが魚類における筋分化を制御していることが強く示唆された。本研究の成果は、成長の優れた種苗を選抜するためのマーカー開発などに繋がると期待できる。
(2015年9月)
リソソームにおける糖タンパク脱シアリル化機構は、
魚類から哺乳類まで高度に保存されている
Ryuzono, S., Takase, R., Oishi, K., Ikeda, A., Chigwechokha, P., Funahashi, A., Komatsu, M., Miyagi, T., Shiozaki, K.,
Lysosomal localization of Japanese medaka (Oryzias latipes) Neu1 sialidase and its highly conserved enzymatic profiles with human.
Gene, 575, 513-523, 2016 Pubmed
リソソームはオートファジー分解経路において重要なベシクルであり、リソソームの異常は種々の疾患や発生異常に関与することが知られている。リソソームにおける糖タンパクの分解にはシアリダーゼによる脱シアリル化が必須であるが、魚類におけるリソソームシアリダーゼNeu1の知見はほとんど得られていない。本研究では、メダカよりリソソームシアリダーゼneu1のクローニングおよび性状解析を行い、魚類で初めてその詳細を明らかにすることができた。その結果、メダカNeu1の性状が哺乳類と比べて高度に保存されていることを見出した。またメダカNeu1の活性化にはカテプシンAが必要であったが、リソソームに局在するためにはカテプシンA以外の要因が必要であることが示唆された。本研究の成果は、魚類におけるリソソーム機能異常の成長や発生などへの影響、および養殖魚やヒト疾病の動物モデルとしての応用などへの研究に有用であると考えられる。
(2015年8月)
ヒト魚共通病原菌Edwardsiella tardaの感染には、
宿主のN型糖鎖の脱シアリル化が必要である
Chigwechokha, P., Tabata, M., Shinyoshi, S., Oishi, K., Araki, K., Komatsu, M., Itakura, T., Shiozaki, K.,
Recombinant sialidase NanA (rNanA) cleaves alpha 2-3-linked sialic acid of host cell surface N-linked glycoprotein to promote Edwardsiella tarda infection.
Fish Shellfish Immunol., 47, 34-45, 2015 Pubmed
Edwardsiella tarda(E.tarda)は多くの種類の淡水・海産魚、爬虫類や鳥類に感染するバクテリアである。魚類に感染した場合、肝臓や腎臓、腸管などに異常が認められる。またヒトに感染した場合、下痢などの症状や敗血症で死に至ることもある。
このE.tardaがどのような分子的メカニズムにより宿主へ感染するかはよくわかっていない。本研究室ではE.tardaが持つ脱シアリル化酵素(NanAシアリダーゼ)が感染の初期のステップに重要な働きをしていることを発見した。シアル酸の持つ負の電荷はバクテリア感染にとって障害であるが、NanAが宿主細胞のN型糖タンパクよりα2-3結合のシアル酸を遊離させ、さらにE.tardaが持つマンノース結合レクチンを利用してN型糖鎖に結合しこれを足場とする。このようにE.tardaは糖鎖をうまく利用して細胞表面に接着後、細胞内部へ侵入することが明らかになった。本研究の成果は、E.tarda感染の予防・治療薬の開発、および養殖状態の新規管理方法への応用が期待される。
(2015年5月)
細胞膜のフォスファチジン酸がシアリダーゼNEU3を活性化し、
種々のがんで悪性度を促進させる
Shiozaki, K., Takahashi, K., Hosono, M., Yamaguchi, K., Hata, K., Shiozaki, M., Bassi, R., Prinetti, A., Sonnino, S., Nitta, K., Miyagi, T.,
Phosphatidic acid-mediated activation and translocation to the cell surface of sialidase NEU3, promoting signaling for cell migration.
FASEB J., 29, 2099-2111, 2015 Pubmed
NEU3シアリダーゼは癌の転移や浸潤、アポトーシスの抑制などの悪性形質を助長していることが知られているが、その活性化メカニズムは不明であった。本研究室では、フォスファチジン酸合成酵素PLD1により産生されたフォスファチジン酸(PA)がNEU3の酵素活性を賦活化していることを見出した。NEU3にはPA結合部位が存在し、増殖因子などの刺激によりPAが産生されることで、NEU3は形質膜への局在変化が可能になり種々のシグナルを活性化するメカニズムが明らかになった。特にRas/ERKシグナルの活性化は顕著であり細胞運動の上昇が認められたが、一方でPAの産生を抑制することで阻害することが可能であった。NEU3活性化機構の解明は、新規がん治療法の開発に繋がると考えられる。
(2015年4月)
サメ筋肉に由来するジペプチドVal-Trpは
高血圧抑制効果が期待される
Ikeda, A., Ichino, H., Kiguchiya, S., Chigwechokha, P., Komatsu, M., Shiozaki, K.,
Evaluation and identification of potent angiotensin-I converting enzyme inhibitory peptide derived from dwarf gulper shark (Centrophorus atromarginatus).
J. Food Process Pres, 39, 107-115, 2015 Journal homepage
現在、成人男性の6割が高血圧、およびその予備軍とされている。高血圧は重篤な心・脳疾患のリスクを上昇させるため、血圧の制御は非常に重要であると言える。本研究室では鹿児島県近海に生息する深海ザメ(アイザメ)の筋肉プロテアーゼ分解物に血圧上昇に関与するアンジオテンシンⅠ変換酵素(ACE)に対する高い阻害活性があることを見出した。その活性はこれまでの報告例に比べて高い値を示し、ACE阻害ペプチドに特有の苦みも見られなかった。さらにこの筋肉に由来する活性ペプチドの同定を試みたところ、ジペプチドVal-TrpがこのACE阻害活性に最も寄与していることが明らかとなった。またこのペプチドは抗酸化活性も示したことから、二機能性の高血圧抑制食品としての利用が期待できる。
(2014年9月)
ティラピアにおけるガングリオシド代謝は、
形質膜に局在するNeu3aシアリダーゼにより制御される
Chigwechokha, P., Komatsu, M., Itakura, T., Shiozaki, K.,
Nile Tilapia Neu3 sialidases: molecular cloning, functional characterization and expression in Oreochromis niloticus.
Gene, 552, 155-64, 2014 Pubmed
糖脂質の一つであるガングリオシドは発生や成長、疾病など様々な生理現象に関与することが知られている。ティラピアは世界中で養殖される魚種であるが、そのガングリオシド代謝系に関する報告はほとんど無い。そこで本研究室では、糖鎖末端に位置するシアル酸の分解に注目して解析を行った。その結果、ティラピアのゲノムには5つのneu3遺伝子が存在することが明らかになり、指宿に生息するティラピアではそのうち3種類(neu3a、neu3d、neu3e)の組織発現が認められた。またNeu3aは形質膜に局在するガングリオシド特異的シアリダーゼであることが見いだされ、ティラピアにおけるガングリオシド分解の初発反応はこのNeu3aにより行われていることがわかった。この結果よりNeu3aが魚類の発生や成長、疾病の新規マーカーとして利用できる可能性が示唆された。
(2014年4月)
メダカNeu4シアリダーゼはリソソームにおける
異化分解に関与する
Shiozaki, K., Ryuzono, S., Matsushita, N., Ikeda, A., Takeshita, K., Chigwechokha, P., Komatsu, M., Miyagi, T.,
Molecular cloning and biochemical characterization of medaka (Oryzias latipes) lysosomal neu4 sialidase
Fish Physiol Biochem, 40, 1461-1472, 2014 Pubmed
Neu4シアリダーゼは哺乳類で神経の分化抑制などに関与することが知られているが、魚類における知見は全く得られていない。そこで本研究室では小型魚類メダカのゲノムを解析し、Neu4シアリダーゼの遺伝子クローニングおよび生理機能の解明を試みた。その結果、メダカNeu4は哺乳類NEU4とは異なった性状を示し、魚類独自の役割を担っていることが推察された。またリソソームにおける局在を示したことから、魚類細胞における異化分解に関与すると考えられる。